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音楽ライター・金子厚武のブログ
by ashadeofshyness


2014年の現状⑤クラウド化するアーティストたち

YouTubeによって、「新しい/古い」という価値観が薄れ、ニコニコ動画によって、音楽とアニメ、漫画、ラノベなどがこれまで以上に結びつきを強めるなど、あらゆる表現がフラットになったという話はよく聞ききますが、この流れを受けて、作り手自体も年齢や表現手段の枠を超え、フラットな存在になっていくのはある意味当然。これを「クラウド化」と呼んでみることにします。

例えば、声優も務めるシンガーソングライターとイラストレーターの2人組による「視聴覚ユニット」のみみめめMIMIは6月に初ライブを行い、かつてWEBコミック『シアロア』を発表し、現在『別冊少年マガジン』に連載を持つ漫画家含む2人組・感傷ベクトルも、今年ひさびさの作品を発表しました。両者ともに匿名性の強い存在ですが、徐々にその姿を現しつつあることも共通点です。ビジュアルと音楽のリンクという意味では、近年ではamazarashiがエポックメイキングな存在で、匿名性という意味でも先駆けでしたが、彼らはあくまでもバンドで、ビジュアル担当は別に存在するのに対し、みみめめMIMIや感傷ベクトルは異なる分野のクリエイターがひとつの集団を形成しているのがポイント。ニコ動周りではクリエイターチームも数多く存在しますが、あくまで音楽を中心に置いているという意味では、彼らともまた差別化が図られていると言っていいでしょう。





ただ、何事にも「光と影」の両側面が存在するというもので、彼らは「あらゆる表現がフラットになった時代」を体現している一方で、「音楽だけでは成り立たなかった」という側面もあります。みみめめMIMIにも、感傷ベクトルにも、そしてもちろんamazarashiにも、裏側には今の形態へと至る一発逆転のストーリーがあるのです。これは今のアイドルにも言えることだったりして、アイドルになりたくてアイドルをやっている子がたくさんいる一方で、もしかしたら同じくらいの割合で、歌手や女優、タレントへの通過儀礼として、あえてアイドルにチャレンジしている子も多かったりする。つまりは、アイドルも「クラウド化」しているのであり、これもある意味では時代感の表れなのかもしれません。

視聴覚ユニットの誕生 みみめめMIMIインタビュー
http://www.cinra.net/interview/2013/08/15/000000.php

メディアミックスの時代? 「感傷ベクトル」の戸惑いと新たな一歩
http://www.cinra.net/interview/201406-kanshovector

もう少し話を広げると、普通にミュージシャンのみの集団でも、バンド、ボカロ、ネットレーベルという「ネット3世代」がビジュアルノベルの『クラナド』で結びついたfhanaをはじめ、年の差バンドが多く見られるようになっているように思います。言ってみれば、②で挙げた吉田ヨウヘイgroupや森は生きているもそうで、彼らは時代を超えた様々な音楽で結びついている集団。一方、ミュージシャン同士の距離が物理的に近い東京とは真逆の環境とも言うべき、北海道のベッドタウンを拠点に活動するFOLKS(「人々、集団」を意味する)は、バンド内で知識を共有し、なおかつそれを近しい仲間たちにも広め、ネットワーク化して行こうとする姿勢を持ったバンド。中心人物の岩井郁人はこんな風に語っています。

「今はiCloudやDropbox、Evernoteといったクラウドサービスが発達してるんだから、それらを有効に使うべきだと思う。クラウドの中にひとつのフォルダを作って、そこにそれぞれ自分の好きなものやアイデアをとにかくどんどん突っ込んで、ごちゃ混ぜにして共有することで、そこから新しい音楽を創造していくことが可能なのではないかと考えています」

このように、違う世代・違う趣味・違う手段を持った人間が、差異を認めつつも、ひとつの集団を形成することによって、新たな表現を切り開いてくという流れは、間違いなく今後も広がっていくことでしょう。



ネット3世代が紡ぐ「新しい物語」 fhanaインタビュー
http://www.cinra.net/interview/201405-fhana


by ashadeofshyness | 2014-07-16 22:41 | YEAR IN MUSIC
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